「ケトジェニックダイエット」という言葉、最近よく耳にするけれど、具体的にどんなものなの? なんだか難しそう…そう感じている方も多いかも知れません。

簡単に言えば、ケトジェニックダイエットは「体の中のエネルギー源を切り替える食事法」。いつも私たちが使っている「ブドウ糖」の代わりに、「ケトン体」という別の燃料を使う体質に変えていくのが大きな特徴です。

1. ケトジェニックダイエットの歴史

ケトジェニックダイエットは、実は新しいブームのダイエット法ではありません。その歴史は、今から約100年前にさかのぼります。

  • 始まりは「てんかん治療」: 1920年代、アメリカの医師が、当時有効な治療法が限られていた小児てんかんの治療法として、この食事法を開発。絶食がてんかん発作を抑える効果があることは知られていましたが、絶食を続けるのは困難です。そこで、「絶食に似た効果」を得られる食事として、糖質を極限まで減らし、脂肪を多く摂る食事が考案され、一定の効果を上げました。
  • 「ダイエット法」としての注目: その後、肥満やメタボリックシンドロームが社会問題になる中で、このケトジェニック食が効率的な減量法として注目されるようになりました。特に2000年代以降、その科学的なメカニズムが解明され始め、再び脚光を浴びています。

つまり、ケトジェニックダイエットは、元々医療現場で使われていた、実績のある食事法なのです。

2. ケトジェニックダイエットの仕組みと効果

通常の私たちの体は、食べたご飯やパン、麺類などの「糖質」を分解して「ブドウ糖」を作り、これを主なエネルギー源としています。

ケトジェニックダイエットでは、この糖質の摂取量を極端に少なくします。体はブドウ糖が足りなくなり、脂肪を分解して「ケトン体」という物質を作り出し、これを主要なエネルギー源として利用し始めます。エネルギー源は糖質のみ、と考えられていましたが、脂質も利用でき、しかもエネルギー効率はむしろ糖質よりも良いのです。

主な効果:

  • 効率的な体重減少: 体が脂肪を燃焼してケトン体を作るようになるため、体脂肪が減りやすくなります。特に、食欲を抑える効果も報告されており、自然と摂取カロリーが減りやすい傾向があります。
  • 血糖値の安定化: 糖質の摂取を大幅に減らすため、食後の急激な血糖値の上昇(血糖値スパイク)が起こりにくくなります。食後高血糖といった糖尿病予備軍の方にとって非常に大きなメリットです。インスリンの分泌を抑えることにも繋がります。
  • 空腹感の軽減: ケトン体は脳のエネルギー源にもなるため、糖質中心の食事に比べて空腹感を感じにくいとされています。脂肪は消化に時間がかかるため、満腹感が持続しやすいという利点もあります。
  • 集中力・パフォーマンスの向上(一部の人に): 血糖値の変動が少なくなることで、食後の眠気がなくなり、集中力の維持や精神的な安定に役立つと感じる人もいます。

3. ケトジェニックダイエットの具体的な実施方法

ケトジェニックダイエットの基本は、「高脂質・適正タンパク質・低糖質」です。

  • 糖質(炭水化物)を徹底的に制限する:
    • 目標は1食あたり20g程度(ご飯お茶碗1杯で約55g、食パン1枚で約30g)。これがいちばん重要で、難しい点です。
    • 避けるべきもの: ご飯、パン、麺類、芋類、砂糖、菓子、清涼飲料水、果物、一部の根菜(にんじん、かぼちゃなど)。
    • 食べられるもの: 葉物野菜(ほうれん草、レタス、ブロッコリーなど)、アボカド、ベリー類(少量)。
  • 良質な脂質を積極的に摂る:
    • 体脂肪を燃やしてケトン体を作る代わりに、食事から摂る脂肪をエネルギーにするため、脂肪が食事のカロリーの60%程度を占めるようにします。
    • 推奨される脂質: MCTオイル、アボカド、ナッツ、バター、魚の脂(DHA・EPA)、ココナッツオイルなど。
  • タンパク質は適正量摂る:
    • 体の筋肉や組織を作るために必要ですが、摂りすぎると糖に変換されてしまい(糖新生)、ケトーシス状態を妨げる可能性があります。
    • 体重1kgあたり1.0~1.5g程度が目安(例:体重60kgなら60~90g)。
    • 推奨されるタンパク質源: 肉(鶏肉、牛肉、豚肉など)、魚、卵、豆腐、チーズなど。
  • 水分と電解質補給:
    • 糖質制限中は体内の水分が排出されやすくなるため、十分な水分と、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの電解質補給が重要です。

4. 懸念点(注意すべきこと)

ケトジェニックダイエットには効果がある一方で、注意すべき点や、すべての人に適しているわけではないという側面もあります。

  • ケトフルー(導入期の不調): ケトーシスへの移行期に、一時的に頭痛、吐き気、だるさ、集中力低下、便秘などの症状が出ることがあります。これは体がエネルギー源の切り替えに慣れていないために起こり、数日から数週間で収まることが多いです。電解質不足が原因となることもあります。
  • 栄養素の偏り: 糖質制限により、食物繊維や一部のビタミン、ミネラルが不足しやすくなります。野菜の摂取が減るため、腸内環境への影響も考慮が必要です。
  • 持続可能性: 厳格な糖質制限は、外食や会食が多い人にとっては続けるのが難しい場合があります。リバウンドのリスクもゼロではありません。
  • 特定の疾患への影響: 糖尿病治療薬を服用中の人、腎臓病、肝臓病、膵臓病、脂質異常症、妊娠中・授乳中の人など、特定の疾患がある場合や体質によっては、かえって体調を崩す可能性があります。必ず医師の指導の下で行うべきです。
  • 口臭: ケトン体の一種であるアセトンが呼気から排出されることで、一時的に口臭が強くなることがあります。

5. 現時点での評価

ケトジェニックダイエットは、適切な方法で行えば、体重減少、血糖値の安定、2型糖尿病や境界型糖尿病の改善において、非常に有効な手段であると、多くの研究で示されています。

  • 特に血糖値管理においては、糖質制限が直接的に血糖値の上昇を抑えるため、即効性が期待できます。インスリン初期分泌能が低い方には、食後血糖の急上昇を防ぐ上で有効な選択肢となり得ます。
  • しかし、自己流で行うのは危険です。個人の体質、健康状態、基礎疾患、飲んでいる薬などによって、適切な糖質量や栄養バランスは異なります。また、栄養素の偏りや体調不良を避けるためには、専門知識が必要です。
  • 現時点では、長期的な安全性や効果については、まだ十分な研究が必要とされています。

結論として、ケトジェニックダイエットは、医師や管理栄養士といった専門家の指導のもとで、個人の状態に合わせて慎重に行えば、血糖値管理や体重管理において大きな効果が期待できる食事療法です。YOKO CLINICでは、医師がリブレ2を用いて血糖変動を可視化し、パーソナルなアドバイスを提供することで、クライアント様はより安全かつ効果的にこの食事法を取り入れられるでしょう。